線は、僕を描くは、水墨画を通して世界が色づく感覚がすごいと思った話

少し前に、配信で、「線は、僕を描く」の映画を観ました。
そのときも、美しい作品だな、と思いながら観ていたのですが、それから少しあとに、図書館でたまたま原作の書籍を見つけたんですよね。
で、読んでみて思ったんですが……
これは、映画だけ観た方も、是非原作を味わって欲しいなと思いました。

今回は、そう感じた理由について、少し書いていきたいなと思います!
線は、僕を描くってどんな話?
簡単に言うと、高校生のときに両親を事故で失い、天涯孤独となった大学生の主人公が、水墨画を通して自分を見つめ直し、世界と関わっていく物語です。

水墨画。

そう。
本当に、ひょんなことから、水墨画の巨匠に見出されて、そのときから彼の世界は変わっていくんですよね。
何がそんなに凄かったのか
平たく言うと、白黒のはずの水墨画を通して、主人公の世界が色を取り戻していく感覚が、手に取るように伝わって来るのが素晴らしかったんです。

多分……
両親を失った事故のときに、主人公の世界からは色彩が消えていたと思うんですよ。
彼の人生において、それほど衝撃的で、影を落とすような出来事だったと思うので。

でも、水墨画で観た薔薇には、色が見えた。情熱的な赤が見えたんだよね。
主人公も、もちろんそう見えたんだと思う。目の前の絵が素晴らしかったから。
もっとすごいのは、主人公の観察力によって、その色が読者の方にもありありと伝わってくるということなんだ。
色が見えたということは、主人公は、水墨画の世界に命を感じたんですよね。
自分が失いかけていた、生命力、というか。
つまり、彼は
色彩をなくした世界に、同じく色彩のないはずの水墨画を通して、再び色をつけていく
という経験をしたわけで、さらにそれがこちらにも伝わるというのが、本当に、原作でしか味わえない、唯一無二の体験だと思うんです。

さらに、本編はずっと主人公の一人称で語られる。
こちらに「水墨画の色」を伝えてくる彼の繊細な感覚は、本人の水墨画の才能にも説得力を持たせてくるんだ。
なんか、うまい具合にすべてが噛み合っているんだよね。
唯一無二の読書体験
題材としては、本当によくあるパターンの話だと思います。
色彩をなくした主人公の世界が、とあるきっかけを持って、再生していく物語。
そのきっかけが、水墨画だったというだけで、構造自体は珍しい話ではないです。
でも、再生のきっかけとして、水墨画が挙げられるというのが本当に美しすぎるんです。
主人公の感覚や、感性と、あまりにも共鳴し過ぎている。

映画も美しいんですよ!
あの世界が単に可視化されたというだけでも、感動が止まらないです。
でも、映画だけでは、あの感覚はちょっと味わえないと思うんですよ。
映画だと、本作で特に重要だと思われる、主人公の語りの部分が、大部分カットされてしまいますからね……!

まあ、それは構造上仕方がない。
映画が駄目ってわけじゃないし、むしろ映画も観て欲しいくらいだ。
「線は、僕を描く」
まだ触れたことがない方は、是非触れてみてください……!
